5月19日、その日は、仕事で嫌なことがあって凹んでいて、おまけにひどい雨だった。

むしゃくしゃして、一杯引っ掛けてこうと入った、フードは50円からの安っすい立ち飲み屋。

店の常連客らは楽しげに語らっていたが、初めて入った私はむろん輪に入らず、話しかけないでオーラを放っていた。

しかしながら、隣で立っているおっちゃんが食べている、串が気になった。

チラ見には、随分、大きな串で美味しそうだ。

串も一本150円までしかないはずだが、あんなに大きな串、あれはどんな肉だろう。

つい、「すみません、それ、なんですか?」

とたずねると、おっちゃんは、

「これはつくねだよ、食べる?うまいよ。おじさんはいつもこれなんだ。」

と快く答えてくれた。

いただくのは悪いゆえ、「いえいえ、お気持ちだけで」と笑顔でお断りしたものの、おっちゃんは、皿にある2本のうちの2本目の串を中々手をつけなかった。

しばらくしておっちゃんは、ママさんに、「つくね、もう一本焼いて」と注文した。

焼けると、おっちゃんは、それを私にくれた。

 期待以上に美味しかった。

「ここ初めて? なんか元気ないけど、失恋でもしたの?」

「いえいえ、仕事でちょっと。。失恋する人すらいないです」と返答し、

それから絶妙な距離感で、ちょっとずつ、いろんな話をした。

 普通のビールと黒と2杯飲んで、〆ようかと思ったが、おっちゃんはさらに一杯おごってくれた。

それを飲み終え、帰ろうとすると、今日知り合いからもらったという、見たことないラグビーボールのようなリッパなサツマイモまでくれた。

 ちょうどその時、さつまいもは仕事上タイムリーだった。

そのおっちゃんは、皆から浜ちゃんと呼ばれていた。

でる頃には雨も上がり、浜ちゃんのおかげですっかり気持ちも晴れた。

その店の名を、入る前も意識せず、出るときも「気をつけてお帰り!!」と浜ちゃんに見送られたため、見損なった。

ショップカードももちろん、なかったと思う。

でも、あの店には、ショップカードなんて必要ないのだ。

まして、店名すら覚えておく必要すらもないのだ。

 普段は滅多に降りない、都心から外れた駅近くの店だったが、ダウンタウンのその店は、いつ行っても、いいお客で溢れ、そのコミュニティは変わらずにそこにあるような気がする。

 この出来事を、なぜかボスに送った。

 これがたぶんきっかけで、通常の記事以外にメルマガの連載をやらせてもらえました。